大判例

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東京高等裁判所 昭和61年(行ス)11号 決定 1986年8月12日

抗告人 飯田盛造 ほか一名

主文

本件抗告をいずれも棄却する。

理由

本件抗告の趣旨は、抗告人らと船橋市長大橋和夫との間の千葉地方裁判所昭和五八年(行ウ)第五号下水道事業受益者負担金の賦課処分取消請求事件につき同裁判所が昭和六一年三月三一日なした「原告ら(本件抗告人ら)の昭和六一年二月一九日受付けにかかる期日指定の申立てを却下する。」との決定を取り消し、次回口頭弁論期日の指定を求める、というのであり、その理由は別紙のとおりであるが、これを要するに、抗告人らは原裁判所の訴訟指揮に不服があるため口頭弁論期日に出頭しなかつたものであつて、抗告人らの期日指定の申立てを却下した原決定は失当であるというに帰すると解される。

よつて、判断するに、一件記録によれは、原審訴訟における口頭弁論期日の経過は原決定に掲記のとおりであつて抗告人らは自ら訴えを提起しながら正当な理由なく口頭弁論期日にいたずらに不出頭を繰り返しているものであり、本件期日指定の申立ては、原決定の説示するとおり、信義誠実の原則に反し、期日指定申立権の濫用にわたるものと言わざるをえない。

そうすると、抗告人らの申立てを却下した原決定は相当であつて、本件抗告はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 野田宏 南新吾 成田喜達)

抗告の理由

一 昭和五九年弐月拾五日午前拾時の口頭弁論期日に於て裁判長は請求原因壱を撤回せよ。そして内容に付て争えと訴訟指揮をなしたるも原告らは夫に対し右請求原因一を陳述させられ度いと申述べたが許されなかつた。

二 然るに被告に対しては答弁書全部の陳述を許したのみならず、その被告の主張に対し原告らに対し認否を求めたので原告らは当該事項が自己の関与しない事項故民事訴訟法の原則並び訴訟の慣例に基づき「不知の陳述」を為したるも、それでは不可であると詳細に答弁即ち認否を求められたのでよく検討して次回に認否乃至答弁すると申したるも法律の素人の故か右の如く「不知の陳述」を為すべき場合であるとの判断に変更を生じなかつた。況んや答弁書五頁の「思想的背景は、云々の個所は夫に批評することはせん越」であるにとどまらず、且つその文が適切であるか否かはかく別現行憲法下に於る公共の福祉は旧憲法下の夫と異り、にわかに判断を下し難いのみならず、右の如き事項に対し答弁を強要するは思想の自由を保障した憲法第十九条に違反するものであると思料する。

三 以上の通りに付き本件決定書拾壱頁の記載は事実に反する虚偽である就中原告らが次回口頭弁論まで検討して認否の陳述をすると述べたるは決定書記載の如き請求原因の釈明ではなく、該期日に於て訴状の請求原因の陳述も禁じられている時点の答弁書の記載事項で原告らが「不知の陳述」を為したる事項である。

四 本件決定書の主文の如く期日指定の申立を却下されると民訴第二三八条により訴の取下が擬制されることになるので違法な行政処分の取消を求めることが出来なくなるので本日次回口頭弁論期日指定の申立を致しましたが、本件決定は前記諸事由により失当であると思料しますのでここに抗告の申立に及んだ次第です。

【参考】第一審(千葉地裁昭和五八年(行ウ)第五号 昭和六一年三月三一日決定)

主文

原告らの昭和六一年二月一九日受付けにかかる期日指定の申立てを却下する。

理由

一 本件申立ての要旨は、原告らが昭和六一年二月一九日受付けにかかる期日指定等の申立書をもつて次回(第八回)口頭弁論期日の指定を求めるというものである。

二 本件訴訟の経過

本件記録によれば、本件訴訟の経過は次のとおりである(別紙「口頭弁論期日の経過」参照)。

1 原告らは、昭和五八年六月一五日、被告が原告らに対してなした昭和五八年三月一五日付け下水道事業受益者負担金の賦課処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求める訴えを提起し、第一回口頭弁論期日が昭和五八年八月一七日午前一一時と指定されたが、原告らは右期日に欠席したため、延期となつた。なお、原告らから、右口頭弁論期日経過後である昭和五八年八月一七日午後二時三〇分受付けにかかる「欠席届」と題する書面が送付されてきた。

2 第二回口頭弁論期日は、昭和五八年一一月二日午前一一時三〇分と指定されたが、原告らから右期日を同日午前一〇時三〇分とする期日請書が提出されたため、裁判所書記官から原告らに対し、第二回口頭弁論期日は昭和五八年一一月二日午前一一時三〇分であること、右期日までに原告らの主張を明確にする等の準備をして欲しい旨書面で通知したところ、原告らは、昭和五八年一一月一日受付けにかかる「停止条件付期日変更の申立」と題する書面をもつて、期日が午前一一時三〇分と指定されたことへの不服から右期日には欠席すること、訴状及び昭和五八年一〇月三一日付け準備書面(この準備書面は、右書面とともに郵便で当庁に送付された。)を擬制陳述されたい旨の申出をするとともに、その擬制陳述がされない場合には期日を変更して欲しい旨申し立てたうえ、右期日には出頭しなかつた。そのため、被告指定代理人は弁論をなさず退廷し、同期日は休止(第一回目)となつた。

3 原告らは昭和五八年一一月一五日受付けの書面をもつて期日指定の申立てをしたため、第三回口頭弁論期日が昭和五九年二月一五日午前一〇時と指定された。そして、右口頭弁論期日において、原告らの本件処分の違法性に関する主張が不明確、曖昧であつたことから、裁判長から釈明を求めたのに対し、原告らは次回期日までに検討する旨述べたため、原告らは訴状中の請求の趣旨の項のみを陳述し、被告指定代理人は答弁書を陳述した段階で弁論は続行となり、次回(第四回)口頭弁論期日は昭和五九年五月二三日午前一〇時と指定された。

4 しかるに、原告らは、右期日に出頭しなかつたため、被告指定代理人は弁論をなさず退廷し、右期日は休止(第二回目)となつた。なお、原告らは、右口頭弁論期日経過後である昭和五九年五月二四日受付けにかかる「請求の原因陳述の申立」と題する書面及び同日受付けにかかる「陳述の申立」と題する書面をもつて、訴状中の請求の原因の項、昭和五八年一〇月三一日付け準備書面及び昭和五九年二月一五日付け「請求の趣旨拡張の申立」と題する書面の各陳述の許可を求め、訴状中の請求の原因の項の陳述が許されない限り第四回口頭弁論期日には欠席する旨通知してきた。

5 原告らは、右休止期日満了の直前である昭和五九年八月二二日受付けにかかる書面をもつて期日指定の申立てをしたため、第五回口頭弁論期日が昭和五九年一〇月二四日午前一〇時と指定されたところ、原告らは、昭和五九年一〇月一五日受付けの書面をもつて請求原因陳述の許可を求め、更に、右口頭弁論期日経過後である昭和五九年一〇月二四日午後三時三〇分受付けにかかる「欠席届及続行申請並期日指定の申立」と題する書面をもつて、請求原因の陳述を許可する旨の通知がないことを理由に第五回口頭弁論期日には欠席すること、請求原因の陳述を許可すること、次回(第六回)口頭弁論期日を指定することを求めてきたが、第五回口頭弁論期日は、原告らが欠席したため、前回同様、被告指定代理人は弁論をなさず退廷し、右期日は休止(第三回目)となつた。なお、被告指定代理人は、右第五回口頭弁論期日に備えて、昭和五九年一〇月一一日受付けにかかる詳細な準備書面及び証拠説明書を提出していた。

6 原告らは、再度、右休止期間満了の直前である昭和六〇年一月二二日受付けの書面(二通)をもつて、期日指定の申立て及び訴状中の請求原因の陳述の許可を求めたため、第六回口頭弁論期日が昭和六〇年五月二九日と指定されたが、原告らは、右期日に出頭しなかつたため、前回同様、休止(第四回目)となつた。なお、原告らは、右口頭弁論期日経過後である昭和六〇年五月三〇日受付けにかかる「欠席届及び期日指定等の申立」と題する書面を提出し、第六回口頭弁論期日には欠席すること、請求原因の項の陳述の許可をされたいこと、次回口頭弁論期日を指定して欲しい旨を通知してきた。

7 原告らは、右休止期間満了の直前である昭和六〇年八月二七日受付けの「期日指定等の申立」と題する書面をもつて、期日指定の申立て及び請求原因の陳述の許可を求めたため、第七回口頭弁論期日が昭和六〇年一一月二〇日午前一〇時と指定されるとともに、裁判長の指示に基づき裁判所書記官が原告らに対し、「通知書」と題する書面をもつて、次回口頭弁論期日に出頭しない場合には、弁論が終結され本件訴えを却下するとの裁判を受けることも考えられること、第三回口頭弁論期日において請求原因の陳述が留保となつたのは裁判長の求釈明に対して原告らが即答せず次回口頭弁論期日に弁論すると述べたためであること、訴状その他の準備書面を陳述するためには原告らが口頭弁論期日に出頭する必要があり、口頭弁論期日前に陳述の許可を決定するというような性質のものではないことを通知した。

それにもかかわらず、原告らは右口頭弁論期日に出頭せず、前同様、右期日は休止(第五回目)となつた。

なお、原告らは、右口頭弁論期日経過後である昭和六〇年一一月二〇日午後〇時三〇分受付けにかかる「欠席届及びその他」と題する書面をもつて、第七回口頭弁論期日には欠席すること及び第三回口頭弁論期日において原告らの請求原因の陳述を禁止した裁判長の命令に対して抗告を申し立てる旨通知してきた。

そして、右休止期間満了の直前である昭和六一年二月一九日、本件期日指定の申立てがなされるに至つた。

三 当裁判所の判断

本件訴訟の経過によれば、原告らは、第三回口頭弁論期日において、裁判長が訴状中の請求の趣旨の項のみを陳述させた措置を不服とし、請求原因の陳述の許可を求め、右許可がなされない限り本件口頭弁論期日には出頭しないという態度をとつているものということができるが、右訴状中の請求の原因の項に記載された原告らの主張は、その趣旨が不明確であるばかりか、およそ違法事由には該当しないものも含まれており、また、具体的内容に欠けるものがあるというべきであつて、原告らが釈明に応じてその主張を整理し、弁論の準備をなすことは、訴訟当事者としての原告らの当然の責務に属するものというべきである。また、第三回口頭弁論期日において、原告らの請求原因の陳述が留保されたのは、裁判長の求釈明に対し原告らが次回口頭弁論期日までに検討し弁論を準備すると述べたためであり、右措置に対して不服を申し立てることは、ひつきよう、自分で自分の弁論の懈怠と責務の放棄を論難することに帰し失当である。

のみならず、担当書記官より書面で原告らに通知したように、当事者は、口頭弁論期日に出頭しない限り、続行期日において訴状その他の準備書面を陳述することはできず、口頭弁論期日における陳述は当該期日前にその許否を決するという性質のものではないから、原告らが訴状中の請求の原因の項の陳述の許可がない限り口頭弁論期日には出頭しないとの態度をとる限り、本件訴訟手続の進展は全く望めない。そして、本件訴訟は、訴え提起後本件期日指定の申立て時までにすでに二年八か月も経過しているのに、実際に弁論がなされたのは第三回口頭弁論期日の一回のみであつて、この間すでに五回にわたり原告の理由のない不出頭により休止が繰り返されている状況であり、仮に、本件期日指定の申立てに応じて、さらに口頭弁論期日を指定したとしても、前同様、休止と期日指定の申立てが繰り返されるおそれが極めて強いものといわなければならず、そのために相手方当事者である被告に多大の迷惑をかけることにもなり、ひいては当裁判所が扱う他事件の迅速な進行の支障ともなることが予測される。

以上検討したところによれば、本件訴訟の経過における原告らの態度は、訴訟手続において要求される信義誠実の原則に著しく違背し、かかる状態のもとにおいてなされた本件期日指定の申立ては、その権限を濫用した無効なものと断ぜざるを得ない。

四 以上の次第であるから、本件期日指定の申立てを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 友納治夫 増山宏 濱本光一)

口頭弁論期日の経過

口頭弁論期日

(昭和年月日)

原告ら

被告指定代理人

期日の経過

備考

第一回

五八・八・一七

不出頭

出頭

延期

第二回

五八・一一・二

不出頭

出頭

休止

原告らの書面による期日変更申立てを却下

被告指定代理人、弁論をなさず退廷

第三回

五九・二・一五

出頭

出頭

続行

原告らの期日指定の申立てによる期日

原告ら、訴状中請求の趣旨の項のみ陳述

被告指定代理人、答弁書陳述

第四回

五九・五・二三

不出頭

出頭

休止

被告指定代理人、弁論をなさず退廷

第五回

五九・一〇・二四

不出頭

出頭

休止

原告らの期日指定の申立てによる期日

被告指定代理人、弁論をなさず退廷

第六回

六〇・五・二九

不出頭

出頭

休止

第五回に同じ

第七回

六〇・一一・二〇

不出頭

出頭

休止

第六回に同じ

原告らから昭和六一年二月一九日受付けの期日指定の申立て

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